この気持ちをあなたに伝えたい
 もっと古霜先生について知らないことを教えてあげるため、最愛にこんな話をした。

「彼の癖を知っている?」
「いいえ・・・・・・」

 正直どうでもいいので、そんなことを聞きたくない。

「抱きしめるときやキスをするときに背中を撫でるの」

 彼に抱きしめられたことを思い出して、うっとりとした。そんな角重先生は最愛から見て、不気味な人だった。

「そんな話を聞かせるために私をここへ?」
「そうよ・・・・・・」

 屋上へ来たことを後悔しながら、最愛は嫌な話を聞かされ、不機嫌になっている。

「私には関係ありません・・・・・・」
「大切なことよ」

 これっぽっちも大切なことなんかではない。

「そんなことないです」
「そんなことあるわ・・・・・・」

 恋人だったからこそ、そういう恋愛経験ができる。角重先生は自分がいい女、そうやって勝手に自己満足に浸っている。

「あのね・・・・・・」
「用事を思い出しましたので、そろそろ行きます」

 最愛が嘘を吐いている。
 これ以上聞きたくないと言いたそうに背を向けて、この場から立ち去ろうとした。

「・・・・・・逃げるの?」
「はい?」

 最愛はドアに顔を向けたまま、足を止める。

「ねえ、逃げるの?」
「これ以上ここにいたら、時間がなくなります。相談事がないようなので失礼します」
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