俺は、危険な彼に恋をした。
『……お母さん…お父さん…。』
『洸!お前はあっちに行って居ろ!』
『……えっ。』
『美奈!洸を連れて行くんだ!早くしろ!』
『まっ…て、お母さん…?お父さん…どうした…の?ねぇ…いった…い。』
目の前の状況が、なかなか把握出来なかった俺はただただ混乱するばかりで。
『和樹さんを置いてはいけないわ!』
『そんな事言ってる場合じゃ…!ぐはっ…!』
『和樹さん!』
『お父さん!』
親父の腹に向かって一直線にナイフが突き刺さる。
『ぐはっ…はっ…美奈っ…早く…』
『お父さん!お父さん!』
親父の元へと行こうとする俺を、母さんは必死で止めいた。
母さんは、泣きながらも必死で俺を抱き抱え居た。
『おと…さっ…』
ズルズルと倒れる親父。
親父の腹に刺さったナイフを抜き取ると奴は、こっちに視線を向けた。
その瞬間、俺を抱き締める母さんの腕に力が入った。
『お母さ…っ。』
俺は、母さんを見上げた。
『安心しなさい……大丈夫よ、洸。あなたは、わたしが守るからね。』
『お母さん……。』
俺は、再び奴のほうに視線を向けた。
その時だ……
思い切りこっちへとナイフを向けながら走ってくると同時に母さんは俺を抱き抱えながらも、俺に乗りかかる状態で床に倒れ込む。
ぐさっと刺さる音が聞こえた。
俺は、抱き締める母さんの下敷きになりなぎらも奴が母さんの背中をナイフで刺す姿が目に映りこんだ。
『おか…さっ。』
気付いたら俺の目から涙が流れていた。
『お母さん…お父さん…うっ…うう。』
『泣か…ないで洸っ。』
『でも……でも…』
『はっ…はっ…泣かない…で洸。』
『お母さん…死なないで…お願いだから死なないで…。』
『ばか…言わないで…洸を置いていく訳…ない…じゃないの。だい…じょうぶよ…こんな傷すぐ…に。』
『お母さん!?』
母さんも、親父も自分が殺されるっていうのに俺を守ろうと必死になった。
『おい…』
『ううっ…』
暗くてわからない奴の顔をギロッと睨んだ。
『許さない。』その怒りの感情で俺の心はいっぱいだった。
大切な家族を奪った目の前に居る奴が許せなくて、俺も殺されるんだって思ってはいたけど、きっと許せない気持ちの方が強かった。
『お前、いい目をしているな。』
『黙りやがれ!すぐにお前を殺してやる!』
『良い目をしてるな、憎しみの信念で満ち溢れた瞳をしている……決めた。お前を殺すのは惜しい……。』
『うるせぇ一よ!ぐだぐだ言ってんじゃね一よ!』
俺は、起き上がり奴に飛び掛った。
しかし、腕を掴まれ、両腕を背後に回され身動きが取れない状態とされた。
そのまま奴は、俺の背後へと近付くと耳元でそっと囁く。
『離せよ!』
『俺が憎いか?』
『当たり前だ!お父さんやお母さんを殺したお前何か俺が殺してやる!』
『ははっ、おもしれ一な。その目、俺しか見ていない目だな。』
『なっ…』
『俺を憎め、俺を見ろ、そして…俺に堕ちろ。』
俺の顎に手をやると、ぐっと顔を持ち上げられた。
奴の顔が、俺のすぐ近くにあって……
暗くて良く見えない顔だけど。
紅深いその瞳だけが、俺をじっと見詰めてるのがわかった。