恋愛の神様










「心ここにあらずってカンジね。」


後ろから伸びてきた手が灰の落ちかかりそうになっている煙草を俺の口から摘みあげて、器用に灰皿で揉み消す。

肩に顔を乗せた亜子がどうしたの?とちょっとだけ面白がるように尋ねてきた。

最近は亜子と一緒にいる事が多い。

あれから亜子は結局、虎徹との対面を逃げ回っているようだ。

その目下の逃げ込み先が俺で。

一人でいるのを拒むように亜子は俺と時間を過ごす。

無論、俺だって亜子が会ってくれるなら、別の女なんか誘わねーし。


…………野山とはあれ以来、ギクシャクしているし。


呼びつける事はおろか、会社で会っても互いがどことなくよそよそしい。

互いが、というかあからさまに俺が。

そっけない俺の態度に野山はしょんぼり肩を落とし、それを見た俺は益々意固地になって野山を敬遠する。

あーもー……分かれよ。
俺だって大人げなく怒った手前、おいそれと声を掛けづらいんだつーの。

そもそも俺は自分から折れる事を知らない格好付けなんだよっ。

……そんで一度タイミング逃したら益々気まずくなった。

それでもこのままなし崩しに自然消滅なんて選択肢はまるでなくて、ほとぼりが冷める頃合いを見計らっていたりする。



これはそんな最中の事。


< 111 / 353 >

この作品をシェア

pagetop