恋愛の神様




その日はブライダルの現場へ向かった。

企画を煮詰めるため、表仕事はナシ、だ。
こんなイライラした顔で客の前に出なくて済んでヨカッタ。

空いた控室でパソコンを無為に睨みつけていると支配人からお呼びがかかった。

大体にして内容は推測して行ったのだが―――身構えるように対面した支配人からはまた予想以上の事を聞かされて、愕然となった。


「……………………無期欠勤……ですか?」


鹿島支配人がいう事には、ウチの会社の方から野山が期限未定の長期休暇を取る、という連絡が入ったという。
それで実質仕事に穴を開ける野山の代わりに、誰か別の人材を早急に見繕う、という内容だったらしいが。

デスクから鹿島支配人が心配そうな顔を向けてくる。


「理由は一身上の都合と言う事で詳しくは教えてくれなくて。……でもそれを上層部が認めたってんだから、余計気になっちゃうでしょ?草賀くん、何か知らないかしら?」

「や………俺は何も……」


風邪や体調不良を理由に一日二日休むってんなら、こないだの事がショックでサボったな、とも思えるが、それが長期休暇ともなるとさっぱりアテがない。

しかも上層部の誰かが認めた?

相手の方が知らなくても俺の方は上層部の顔をそれなりに把握している。
だが野山と顔見知りがいたなんて初耳だ。
尤も、一介のOLの事など一々公表する程でもないがな。

鹿島支配人ははぁーっと溜息を吐いた。


「……そう。……あの子の能力を買ってる部分があったから、今抜けられるのは正直イタイってのはあるけれど。何かあったんじゃないかって、純粋に心配。」


憂いたその顔に俺は何も言えなかった。
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