恋愛の神様

長く緩い溜息を吐く。

今更、この人に隠しだてもないだろうと、開き直って質問した。


「部長ならもう調べてあるんでしょうね……上層部の誰なんですか?アイツの休暇を許可したってのは。」

「んあー、それについちゃ相手が悪かったな。広告の関口。田貫一派の。」


田貫とは社長夫人の旧姓で、その親戚、縁者が会社に入り込みある種の派閥を作っている。

幾つか子会社を任されていて、その下請けや取引先なども多い。

広告―――ウチでは映像部門ともいわれCMをはじめ広告業に従事しているそこもその一つだ。

部長が相手が悪いと言ったのは、俺は勿論、虎徹でさえコネが効かず、探りを入れるには難しいトコロだ、という意味だ。

最終手段には、虎徹に頭を下げることも考えていたがその選択もこれでなくなったな。


「詳しい事はわかんねぇケドよ、関口と直接知り合いだったってんじゃなくて、もうワンクッションあるようだったがな。」

「もうワンクッション…?つまり関口部長の知り合いの誰かと野山が懇意にしていたってことですか。関口部長に条件を呑ませるということはそれなりに立場がある人物ですよね。アテはないんですか?」

「あるかヨ。分かってんなら既に乗り込んどるわ。にゃろう……人の娘を承諾もなく連れだしやがって。」


いやいや、アンタの娘じゃねーから……。

忌々しげに歯を噛み鳴らすクマに俺はそっと内心で突っ込む。

知らなかったが、この人とんだ親バカだ。










人気のない家に明かりを点けて、ネクタイを緩めるだけしてソファーに身を投げた。

ほろ酔いを通り越して深酔いだ。

いつまでもウルサイ部長を宥めるために一緒に居酒屋へ行き、二人でクダを巻いてしこたま飲んだ。

なまじ二人とも酒が強くて、常ならブレーキ役の俺がヤケ酒のように浴びてたから―――無論、部長はそれを見て『じゃあ、今日は俺がブレーキに…』なんつー愁傷な人柄ではないので―――終点までノンストップだ。


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