恋愛の神様
部長はそっけなく肩を竦めた。
「気付いたのは俺じゃねーよ。オクサン。聞いた時は、またオマエの悪い癖が出たかってなもんでよ。まぁ、あんなぼさっとした雛鳥食っちまうなんざ、オマエも極悪だな、とは思ったけどヨ。」
「……………。」
言われるまでもない。
俺は無言を押し通す。
「でも今回はいつも通りってワケでもねぇーみたいだな。」
からかっている風でもないその言葉に、俺は怪訝に顔を向けた。
「オマエ今、置き去り食らった子供みたいに途方に暮れた顔してンぞ。」
ドキッとした。
努めて態度には出していないつもりで、―――多分、この人でなければ見抜けやしないくらいにはそれは成功していて―――容易く裡を見抜かれていた事に。
そして『置き去りを食らった子供みたいに途方に暮れた顔』と言われた事に。
指摘されて確かにそんな心持なんだと気づく。
単にどうしていいのか分からないだけじゃなく、漠然とした不安や焦燥が綯い交ぜになった困惑。
俺は多分少なからず、捨てられたという事実に傷ついてる。
昨日は野山の態度に腹を立てる事で責任転嫁して、ごまかしただけだ。
それを詳らかに自覚させられて、今更泣きたくなった。
女と別れたくらいで『いつも通り』ならこんなに動揺しない。