恋愛の神様


「んー……まぁ、ヤバイ病気とかじゃなくてヨカッタけど。」


やれやれと草賀さんが顔を上げます。


「そんなわけで、一世一代のご決断をさせてしまいましたが、責任をとるような理由はございませんので――――」


そう言ってワタクシの差し出す用紙を草賀さんはチラリと一瞥するだけしていっかな手を伸ばしません。

あのう、草賀さん…?


「要らん。オマエが持っとけ。」

「は?」

「デキてねぇなら焦る事もねぇけど。オマエが良い時に出せよ。」

「…………。」


草賀さん、極限の緊張から脱出してどこかのネジが緩んでしまわれたのでしょうか。


「大丈夫ですか草賀さん。ワタクシ妊娠はしておりませんよ?草賀さんがワタクシと結婚しなきゃならない理由などありませんが?」


言い含めるような言い方が気に障ったのか草賀さんの端正な眉間に深い皺が寄りました。


「オマエこそ大丈夫かよ。あのなぁ、俺は孕ませた責任取って結婚するなんざ、言ってねぇんだよ。……まぁ、イイ切欠だとは思ったけど。」


…………え。


ワタクシの手がぐっと掴まれました。


「責任なんかじゃねーての。俺は―――」


言いかけて周囲を見回した草賀さんは「止めた」と言って手を放しました。


「ふん。意気地なし。」

「うるっせぇな。お前等に聞かせる義理ねぇっての。帰るぞ、野山っ」

「は、はい……っ。」


勢いに釣られて立ちあがります。

草賀さんの後に続いて玄関に向かっていたワタクシは、後ろから呼びとめられて振り返りました。


「ピー。逃げたくなったらいつでも帰っておいでネ。」


二つの優しく頼もしい微笑に見送られ、ワタクシはその家を後にしました。


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