恋愛の神様
粘土から手を引いた時―――
それはお互いの関係を修復も改善もなく、顧みなくなった時。
「逆に、それまで上手く出来あがっていたとしても手を引かない以上、良くも悪くも形は変わりますけどね。」
そう言って野山は俺に笑いかけた。
「草賀さんとお父さんはまだ創作の途中なんですよ。だから多少不格好でも仕方ないし、それでいいんです。それが当たり前なんですよ。」
その言葉はストンと腹に落ちて、ジンワリと広がった。
―――ああ、そっか。
よそよそしくても大丈夫なのか。
俺も相手もまだこの関係を見限らない限り、それはまだ途中経過なのか。
そう思ったら、それまで親父に対して感じていた罪悪感やら自責の念やらが軽くなった。
「チィちゃん。」
「はい。」
「オマエ、実はちょっと頭イイ?」
心からの誉め言葉だったが、野山にはそう聞こえなかったらしく、大いに口を尖らせて見せた。
その小鳥みたいな顔に俺は噴き出す。
「草賀さん、ワタクシをどう見積もってらっしゃるんですか?これでもワタクシ、こよなく文学を愛する、そーめーな文学少女ですよ!?」
「聡明の漢字変換も出来てないみたいだが?……って、それなら親父のコト知ってんじゃね?」
「草賀いちぞーさん、ですか?いちぞー……え!!まさか、ひょっとしてあの一蔵さんですか!?」
野山は場所を弁えず絶叫を迸らせ、紙袋にまとめた荷物をあたふたと漁りだした。