恋愛の神様

出てきたのは単行本。

内容は企業家たちの悪だくみと殺し屋が活躍するハードボイルドだ。

その表紙に湾曲の余地もなく『くさが一蔵』と載っている。


「だってあの気のよさそうなオッサンがこんな激しい世界を捻出するなんて、想像も出来ませんで………………って、何で教えてくれないんですかー!」

「はいはい。サインならもらっといてやっから。」

「いえ、物語についての私の考察と感想と思い入れを熱く語りたい、語り合いたいのです!一蔵さんの小説がどれほどワタクシの人生の糧になったことか……!あ、でもサインも欲しいです。」


……このハードボイルドのどの辺りを人生の糧にしたんだ、オマエは。


顔を引きつらせたのもつかの間で、俺はすぐに噴き出した。

やっぱコイツおもしれー。


「ああ、また今度な。お前ら意外と気が合いそうだし、きっと親父も喜ぶよ。」


俺もなんかクッションがあった方が気楽だし。

野山の言葉にちょこっと救われたとは言え、現実的には話が盛り上がらず居心地悪いからな。










「で、どこ行きたいんだ?」


最寄りの駅に着いて、コインロッカーに手荷物以外を纏めた紙袋を押し込めた。

俺の質問に野山が小学生みたいに元気よく手を上げた。


「でぃすこに行きたいデス!」

「ディスコ……クラブか。ガキの溜まり場だぞ。」

「知らなかったです。年齢制限があるんですか。」


いや、上限ではなく……。

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