恋愛の神様
俺は野山に断って、静かなトコロまで移動した。
「もしもし。」
『もしもし……ごめんね。出てた?』
静かな所とはいえ喧騒は届いたようで、電話先で亜子がちょっと申し訳なさそうに謝った。
『いいの。用事があったわけじゃないから。』
「そ?」
『ええ。日を改めるわ。また月曜日に会社で―――。』
簡単なやり取りで電話を終えた。
俺は溜息とともに仰のいて、後ろの壁に凭れかかった。
要件は分かってる。
週末だってのに兄貴は仕事にかかりっきりで、寂しいんだろ?
分かっていて俺はこの手の誘いを数回に一回はすげなく断る。
本当は会いたい。
組敷いて啼かせて、自分のものだと声高に宣言したい。
だが、俺にだってプライドってもんがある。
虎徹の代わりだと知っていながら誘いに尻尾を振って飛び付くなんてあまりにも惨めだ。
俺はフロアへ身を翻した。
手には未だポケットに仕舞えない携帯。
ああ、くそっ!
無様だって知っていながら、誘惑に心が揺れる。
実際、亜子から誘いがくることなんて滅多にあるわけじゃないしな。
……仕方ない。
野山には悪いが早々に帰して、亜子のところへ行くか……。