ROSE         ウィーン×横浜
ミヒャエルは宗月の横顔を睨みつける。


「『まだまだ敵わない』そう言いながら、震えていた」


「そう感じるまでに回復した……宗月を追えるまでになったのか。――あの時の詩月が」

ハインツがフッと、柔らかな笑みを浮かべる。

「詩月は5年ほど前、あるコンクールでショパンの『雨だれ』を弾いて優勝して以来、ショパンを弾けなくなっていたんだ」


「ショパンを弾けなくなった?」


「コンクール以前から、その兆候はあったらしい。1時期……クレア、宗月の嫁さんから詩月が宗月のショパンを完コピーするという話を打ち明けられた」


ミヒャエルは、ゴクリ喉を鳴らす。


「意識してではなく、無意識に……クレアに音源を送ってもらい、実際に聴いて言葉を失ったよ。……酷似しているというレベルではなかった……とても宗月には聴かせられなかった」


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