君と奏でるノクターン
 騒然としたカフェ内の空気が一転し、凍りつく。

「書類選考と課題曲音源は期限内に提出していだそうだが、Nフィルとの契約期限が一〇月末までで、留学が遅れたとか。その分のペナルティーは課せられるそうだ」

甘く切なく、激しく奏でられるピアノの音色。
ラテン系の演奏。

なのに……慈悲深く微笑むマリア像の姿の思い浮かぶような、澄んだ音色が響いている。

「Nフィル契約時のヴァイオリンコンクール履歴は、MHKコンクール優勝の1回きり。
無名のヴァイオリニストだった。在籍していた大学では、附属高校時からピアノ専攻でヴァイオリンは副専攻……なのに彼は、フランツ教授に師事している」

「彼が噂の留学生!?」

「……親の七光りだろうと鷹を括っていたけれど、とんだ誤算だ」

「親の七光りって!?」

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