君と奏でるノクターン
「ミヒャエル、指は暖まった? 第九始めないか?」


「クソがつくくらい自由な奴だな。合唱部分しか、まともに知らないぜ」

ミヒャエルは指を休め、ヴァイオリンを構え直して言う。


「わかった」

静かにこたえた詩月。

アヴェ・マリアからの流れを崩すことなく、不自然さを微塵も感じさせず、第九を奏でる。


――アレンジ……っていうか機転っていうか、即興が上手いよな


ミヒャエルは詩月の演奏を聴きながら、ただ感心する。


「ミヒャエル、いつでも弾いていい」

細い掠れ気味の声が穏やかに言う。

ミヒャエルはヴァイオリンを構え直し、気合いを入れて演奏する。

詩月のピアノが、ミヒャエルのヴァイオリンの音色に合わせて、合唱部分を弾き始める。

囃し立てる声と共に、思い思いに客が歌い出す。

合唱などとは、とても言い難い。
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