君と奏でるノクターン
郁子は、5年前から自分自身が少しも成長していないと思う。

追いかけても、どんなに頑張っても追いつかないのは、目標が違うからだと。


――周桜くんはもっと上を見つめてる。周桜くんの目標は、お父さんでもエリザベートコンクール優勝でもない。もっと上だ……


郁子は詩月が様々な誹謗中傷や酷評を受けながら、父「周桜宗月」に酷似した演奏を克服してきた数年間を振り返る。


――周桜くんはいつも真剣だった。どんな時も前を向いていた……どんな時も


郁子の瞳に光が増す。


――『緒方、君と同じ夢がみたい』……あの言葉はエリザベートコンクールのファイナルなんかではない。もっと上だ、もっと……


郁子の音色に煌めきが増していく。


――わたしも周桜くんと同じ夢に向かってピアノを弾きたい


郁子は心の奥底で叫ぶ。


――やっと、わかった。周桜くんの言葉の意味が……「音楽は心」その意味が


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