君と奏でるノクターン
詩月は眉1つ動かさない。

「急いでるんだ、師匠のレッスン時間に遅れるわけにはいかない」


「はぁ? フランツ教授のレッスンの後だろ!? まだレッスンを?」


「君には関係ない」


「あんな完璧な演奏ができてて、まだレッスンを!?」


「完璧!?……あんな演奏で満足なんてできない。あんな演奏で完璧なんて言えない」


「詩月?」


「……自分の演奏がどれ程のものか、わかってる。それに、僕は完璧を目指していない」


「どういうことだ?」


ミヒャエルが怪訝そうな顔をする。


「完璧に弾いても、聴き手を感動させられないなら、弾いた意味がない」


「……フランツ教授を感動させるために……弾いていた?」


「教授1人、満足に感動させられない演奏」


詩月は頼りなく呟く。


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