シンデレラの落とし物
「アイちゃん、ありがとう。でも、アイちゃんのパパとママがきっと心配してるんじゃないかな?」

確認するように一瞬くるりと後ろを振り返り、すぐ美雪に向き直る。

「アイ、へいきだよぉ」

行こ! と手を引かれ、美雪はアイの両親を探すつもりで後を追った。


一方、秋は美雪がいなくなったことに気づかず、後悔のため息をつきながら歩みを進めていた。

ホテルの部屋で美雪に気まずい思いをさせてしまった。
いつもならそんなヘマしないのに、別行動をするといわれて余裕がなくなった。

「主人はもう……この世にいないの」

そういったときの美雪は、壊れてしまいそうなほど脆く、とても頼りなげで寂しそうだった。

どれだけ悲しい思いをしてきた?
どれだけ辛い日々を送った?

手を伸ばしてなぐさめてやりたい。
その強い衝動を抑えるために、手を打ち付けて気持ちを切り替えるのが、あのときはやっとだった。

もし行動に移って拒絶されるのが怖かった、といったら度胸がないと笑われるだろうか?
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