シンデレラの落とし物
美雪は自分から境界線を引いて、そこから一歩も踏み込んでこようとしなかった。自分をよく見せようと媚を売る女性のように、馴れ馴れしく接してくることもなく、あわよくば心の内に入り込もうと企む女性たちとは違った。

出会ったときは正直、いきなり服を掴まれてどちらかというといい印象ではなかった。
ジプシーに囲まれてなにが起きているのか分からなくなったとき、助けに現れた美雪。髪を乱し、ミュールが脱げてもけんめいにジプシーを追う姿に、他の女性にはないなにかを見つけた。

このまま離れたらもう会えないことはわかっていた。もう少し美雪と過ごす時間がほしかった。
だからこそ偶然というにはあまりにも奇跡的な再会に、このまま別れてはいけない気がしたんだーーー。

記憶の中に入れていた地図の道順にそって歩いていた秋が足を止めた。

「もうそろそろ着くけど、美雪……」

振り返って、あるはずの姿がこつぜんと消えていることに気づき、途中で言葉が止まる。
後ろを振り向き、360度ぐるりと視線を移して美雪の姿を探す。回転する風景のなかに、美雪はいなかった。
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