シンデレラの落とし物
ハネムーンで来たイタリア旅行は、見るものすべてが新鮮で、はしゃぎすきたのはわたし。あなたは苦笑いを浮かべ、少し落ち着けってたしなめてた。
ジプシーに襲われるトラブルになったときは、警察へ行ったり大使館へ行ったり、パスポートの再発行手続きや、保険会社に連絡もしなくてはならなくて、予約していたツアーもキャンセル。
後半はハネムーンって感じではなくなってしまったけれど、日本に戻る飛行機に無事に乗れたときは、ふたり顔を見合わせてホッと胸を撫で下ろしたね。

「いってきます」

結婚してから初めての出社日、少し照れ臭そうに笑った笑顔が最後だった。
事故にあったという連絡を受けて急いで病院に行ったわたしが見たのは、霊安室にいるあなたの変わり果てた姿。
もう二度と開くことのない瞼。白いベッドと同じくらい白く生気のない冷たい体。
まるであなたそっくりの人形が眠っていると思った。
ベッドに横たわるあなたは、もう笑わない。わたしを見ない。抱きしめてくれない。

思い出だけを残して、あなたは逝ってしまった。
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