シンデレラの落とし物
声をあげて泣いた美雪はやがて落ち着きを取り戻すと、ぽつりぽつりと話し始めた。過去の思い出を。
秋はただ黙って耳をかたむけた。
何年も胸に抱えていた気持ちをぶつける場所を、美雪は心のどこかで探していたのかもしれない。それがオレの腕の中だったと、うぬぼれてもいいのだろうか?

窓から入る月明かりに優しく照らされた美雪。扇状に広がる長いまつげの下から一粒の涙がこぼれ、頬を滑り落ちる。涙を目で追っていた秋はそっとその涙を拭い、大事なものを扱うようにそっと優しく美雪を抱きしめた。


もう泣くな。
オレがいるからーーー。


秋は頭を下げ、美雪のこめかみに唇を押しあてた。



カモメの鳴く声が聞こえる。
もう朝……。
目を開けた美雪は、明るくなった部屋に朝が訪れたことを知る。
数回瞬きをするも、まぶたが重い。昨日はさんざん泣いて、泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。

頭の下からあるはずのない腕が伸びている。後ろからもう片方の腕が伸びてそれは美雪のお腹辺りに乗せられていた。背中から秋が、守るように抱きしめていた。
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