シンデレラの落とし物
見知らぬ土地で、行き交う人は見知らぬ人ばかり。
精神的にも疲れていた美雪は、人に道を聞く余裕もなくし、周りの人はみんな知っているのに、自分だけが別世界に入り込んだような孤独感を感じた。
不安から動悸が激しくなる。美雪は自分の胸元の前で、落ち着きなく両の拳を握りしめた。

「……!」

そんなとき、突然後ろから肩を掴まれてハッとする。もしかしたらと、期待を胸に振り返った。

「キミ、ヒトリ?」

カタコトの日本語で、体格のいい大男が話しかけてきた。愛想のいい笑顔の後ろから仲間らしき男たちがニヤニヤとした顔をのぞかせる。全部で3人。
お酒臭い。
どうやら朝まで飲んでいた、地元の酔っぱらいたちのようだ。

「………」

美雪は、馴れ馴れしく肩に置かれたままの大きな手に視線を移す。親切に道を教えてくれるような人たちではない。一刻も早く、この3人から離れなければ。身をひるがえして肩をつかむ手から逃れ、自由になった喜びもつかの間。背中を向けた美雪の腕が掴まってしまう。

「はなして!」

「ソウ、ツメタイコト、イワナイデ」

掴んだ手に力が込められる。

「ナカヨクシヨー」

周りを通りすぎる人はトラブルに巻き込まれないよう、見て見ぬふりをしていた。
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