シンデレラの落とし物
前から来た人の靴に当たって止まる。美雪には顔を上げる余裕もなかった。

ミュールどうしよう!?

背後から追いかけてくる足音が近づく。
ミュールを捨てて逃げるべきか迷った。

「突然消えるなんて酷くね?」

この声は。

「秋、くん……」

拾い上げたミュールが差し出され、その先には機嫌の悪さを隠そうともしない、険しい表情の秋の顔があった。昨日とは違い、デニムにパーカーというラフな出で立ち。そのせいか、スーツを着ていたときは大人の雰囲気があったが、昨日よりも若く見える。浮かべている表情はアイドルが出してはいけない、固い表情だ。
美雪を追いかけてきた足音が背後で止まり、現れるはずのない秋が目の前に現れて、驚愕で身動きが取れなくなっていた美雪の時が動き出す。
目の前にはとてつもなく怒った秋。背後には男たち。
絶体絶命のピンチ。

「………」

挟み撃ち状態の美雪は口をつぐんだまま立ち尽くし、秋は美雪の背後に立つ外人を見て、疲れたようなため息をついた。ミュールを持ったまま美雪の前に足を進める。
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