シンデレラの落とし物
こんな秋を、イタリアで見た気がする。
確か、ヴェネチアに連れていかれる前のローマで、全く同じように。

「で、でもね、秋くん、あのっ」

オレの家なんて簡単にいうけれど、わたしの心の準備が!!
はい、オーケー! レッツゴー!! なんてこぶし突き上げるようなノリで行けないよ。
だって、秋くんとわたしは男と女なんだよ!?
それに、気持ちだってローマのときと全く違う。

戸惑い、あたふたする美雪に、秋が頭をコツンと優しくぶつけてきた。

「もしかして余計な心配してる?」

「……少し」

正直に答える。

「美雪が嫌がることは絶対しない」

「秋くん……」

「ただ、時間気にしないでオレと一緒の時間を過ごしてほしい」

真っ直ぐなまなざしと、邪な気持ちがひと欠片もない素直な言葉が胸に染み込んで、気付いたら頷いていた。
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