シンデレラの落とし物
後ろから秋の手が伸びてきて、その腕が美雪を包む。

「ああ、そうだね……」

美雪の肩に顎を乗せて呟く。その後に続くのは、心地よい沈黙。
秋のぬくもりに包まれた美雪の心まで暖かくなる。
彼が離れてしまわないように、肩に絡まる彼のカーディガンからのぞくシャツの袖をギュッと握りしめた。

新しい恋をすることさえ心のどこかでは諦めていたのに、あなたに出会ってある日突然、色褪せていた周りの景色が鮮やかになる。
生き生きとした毎日に喜びを感じるのは、全てがあなたに繋がっているような気がしたから。

でも、この走り出した気持ちはどこへたどり着くの?

次はいつ会えるのか、もう会うことはないのか、行く先は霧がかかってハッキリしない。

こんなに近くで、体温すら感じているのに……。

同じときを過ごしているのに、あなたが近くて遠い。
美雪の胸は切なさに締め付けられた。

会いたくて会いたくて、やっと会えたのに、こんなに苦しいのはなぜなの?

「なに考えてる?」

「……え?」

物思いに耽っていた美雪を、秋の声が現実に戻す。肩に顎を預けたまま、じっと静かな眼差しが窓越しに見つめていた。
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