それは薔薇の魔法




あまり長く歌ったことはないから、なんとも言えないけれど……


でも用意はしておいた方がいいと思う。


どれだけの時間で花が咲くのか分からないのだから。




そして、わたしは最初に城の入口近くの薔薇のもとへ向かった。



「お願い……もう一度、綺麗な薔薇を咲かせて、みんなに癒しを与えて……」



胸の前で祈るように手を重ねる。



普段よりも想いを、力を込めて。


力強く歌い上げる。


普段の倍以上の時間歌い続けて、酸素が頭に回らずクラクラしてしまう。


でも、そのかいがあり……



「さ、咲い、た……」



元通り、綺麗な薔薇がそこにはあった。



よかった……


ここの薔薇がちゃんと咲いたということは、他もちゃんと咲くということ。


ただし、問題は時間……


このままでは明日の夜に間に合わない。


間に合わせるためには……やるしかない。



わたしの命を力に代えて、わたしの魔法を一時的に強くする。


それはすなわち、わたしの寿命が短くなるということだけれど……


迷ってる暇なんてない。


今ここで妥協してしまったら、きっと後悔するわ。


やらないで後悔するより、やって後悔した方が何倍もいい。



「よし……」



いつもより重たい体を動かして、渇く喉を潤して。


わたしは薔薇園の中央に立ち、大きく息を吸い込んだ。












――――――――――――――――――
――――




「はっ、はっ、…うぅ……」



体が、鉛のように重い。


頭はガンガンと酷い頭痛がして、酸素不足でクラクラと世界が揺れる。


踏ん張ってなんとか立っている状態。


少しでも力を抜けば、自分の意識を手離してしまいそう。


でも、と鈍い動作で頭を動かすと、視界いっぱいに広がる薔薇の花。






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