君色-それぞれの翼-
「ただいまー。」
プリントを持って部屋に戻ると、雪と郁那は机に向かっていた。しかし机の上にあるものは教科書でもノートでもない。一枚のプリント。
「郁那ー、プリント。」
「ども。はい、コレ。」
貰ってきたプリントを手渡すと、郁那は自分が今向かい合っているのと同じプリントをあたしにくれた。
「何これ?」
「自己紹介カード。夕食の時間に皆で食堂で自己紹介するらしいから、書けって。さっき配りに来たんだよ。」
郁那の説明を一通り聞き、あたしはプリントを見つめた。
出身地や出身小学校、好きな食べ物や特技など、色々な欄がある。
筆箱を鞄から取り出し、早速記入した。
出身地は五田市(イツダシ)。
出身小学校は五田第三小学校。
特技は…絵を書く事。
好きな食べ物はチョコレート。
得意な科目は…社会…かな。
書きやすい項目から埋めていく。
隣に座っていた郁那が「チョコレートなんて子供ー」等と茶化すが、気にしない。しかしこの言葉には反応せざるをえなかった。
「てか五田市ってどこよ。」
悲しくなって、小さく溜め息を吐いた。
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「へぇ!希咲って通学バスなんだ!」
五田市の説明の後、雪が珍しそうな目であたしを見た。
五田市は悲しいほど知られて無い地域。そこから羽坂に通う人も、指で数えられる程度。
でもその中に戸谷君がいる。
あたしはそれが嬉しかった。
「希咲ー、食堂行くよー。」
郁那が部屋の電気スイッチに手を翳したまま呼び掛ける。
あたしは慌てて筆箱を片付け、プリントを片手に部屋を出た。
そういえば、もう一人のクラスメイトの"斉川愛美"にまだ会っていない。
靴箱の横の荷物を見て、まだ見ぬクラスメイトの存在を思い出したが、まぁいいか、と背を向けた。
食堂の席は、名簿順と決まっていたので、雪とはだいぶ離れた。
隣が郁那になるな、と思ったが、椅子の数が足りず、これまた離れた。
周りが知らない人ばかりの状況に戻り、溜め息を吐く。同時に隣の椅子が引かれた。