君色-それぞれの翼-
顔を上げると、目が合った。
見覚えがある顔…。
教室で隣にいた、ボーッとした印象の、あの子だった。
「あ、どうも。」
目が合った途端、彼女は笑って席に着いた。
おとなしそうな子…。
名前を聞いてみようか。恥ずかしいけど、勇気を出して聞いてみる。
「名前聞いていい?」
初対面の人に自分から話しかけるのは、戸谷君以外では初めてだった。
彼女は穏やかな表情であたしを見ると言った。
「片岡南。私も聞いていい?」
「希咲。一橋希咲。よろしく!」
よろしくー、と南はまた笑う。
ふにゃりとしたその表情はまるで猫のようだった。
自己紹介を聞いていて、みんな個性的なオーラが出ていると思ったのはあたしだけでは無い筈。
冗談混じりの自己紹介で人を笑わせたり、パントマイムを披露したり、と、周りの雰囲気は軽かった。
「戸谷皐です。」
その声にあたしの胸が飛び上がる。
咄嗟に視線を戸谷君にやった。
無表情、周りを見ようともせず、プリントだけを見つめる戸谷君は、当然あたしの存在にも気付かない。
まぁ、ニコニコキョロキョロしている戸谷君なんて想像つかないけど。
「出身地は五田市…」
その言葉にあたしは踊りだしそうな気分になる。
「出身小学校は五田第二小学校。少年野球でピッチャーやってました。」
…知ってる。
「好きな食べ物は特に無いです。」
この言葉が恥かしがり屋の戸谷君の嘘だって事も知ってる。
ピッチャーをやっていたことも、本当は苺が好きだって事も……あたしは知ってる。
皆が知らないことも、今知った事も、あたしは前から知っていた。
ふいに笑みが零れる。
特権。顔見知りの特権。
あたしはニヤける顔を手で覆った。
見覚えがある顔…。
教室で隣にいた、ボーッとした印象の、あの子だった。
「あ、どうも。」
目が合った途端、彼女は笑って席に着いた。
おとなしそうな子…。
名前を聞いてみようか。恥ずかしいけど、勇気を出して聞いてみる。
「名前聞いていい?」
初対面の人に自分から話しかけるのは、戸谷君以外では初めてだった。
彼女は穏やかな表情であたしを見ると言った。
「片岡南。私も聞いていい?」
「希咲。一橋希咲。よろしく!」
よろしくー、と南はまた笑う。
ふにゃりとしたその表情はまるで猫のようだった。
自己紹介を聞いていて、みんな個性的なオーラが出ていると思ったのはあたしだけでは無い筈。
冗談混じりの自己紹介で人を笑わせたり、パントマイムを披露したり、と、周りの雰囲気は軽かった。
「戸谷皐です。」
その声にあたしの胸が飛び上がる。
咄嗟に視線を戸谷君にやった。
無表情、周りを見ようともせず、プリントだけを見つめる戸谷君は、当然あたしの存在にも気付かない。
まぁ、ニコニコキョロキョロしている戸谷君なんて想像つかないけど。
「出身地は五田市…」
その言葉にあたしは踊りだしそうな気分になる。
「出身小学校は五田第二小学校。少年野球でピッチャーやってました。」
…知ってる。
「好きな食べ物は特に無いです。」
この言葉が恥かしがり屋の戸谷君の嘘だって事も知ってる。
ピッチャーをやっていたことも、本当は苺が好きだって事も……あたしは知ってる。
皆が知らないことも、今知った事も、あたしは前から知っていた。
ふいに笑みが零れる。
特権。顔見知りの特権。
あたしはニヤける顔を手で覆った。