君色-それぞれの翼-
HRの後は直ぐに夕食。
明日帰るという事もあり、焼肉だった。
南は細いのによく食べる。
鉄板から取るものはだいたい肉だ。
この焼肉の為に今までの食事代をケチっていたのだろうか、と思うほど肉や野菜の量は凄かった。
あたしは鉄板から肉をとり、タレにつけた。
「お腹いっぱい~」
「めっちゃ食べてたもんね。」
お腹を擦る南に、ふざけた冷たい視線を送る。
「少食っぽい顔してるのにねぇ。」
郁那が配られたお茶のペットボトルに口をつけながら呟き、あたしと同じような視線を送った。
南はふにゃりとした表情のまま、視線には気付かない。
あたしと郁那は疲れて、視線を送るのをやめた。
「後で行くねー。」
「勉強道具持って来いよー、明日テストなんだから!」
「分かってるって!!」
一人部屋の違う南と一旦別れ、あたしと郁那は二人で部屋に戻った。
お風呂に入った後、部屋の端にやっていた机を真ん中に引きずり出し、教科書を広げる。
相変わらず雪や愛美はいない。
まぁ話し辛い人が沢山いてもな、等と思いながら南を待った。
「"やかん"のつづりは?」
「えっと…kettre!!」
「ブー!!rじゃなくてl!!」
習いたての単語や公式、小学校では見た事の無い漢字。
全てが新鮮で面白く思えた。
笑いながら勉強するのは楽しい。
塾の冬期講習を思い出す。
今何してるかな。
「希咲~寝るなよ~」
郁那の声で我に返る。
「ね、寝てないし!!」
そう言って背筋をピンと伸ばして見せると、隣の南が驚いて肩を揺らした。
今戸谷君の事を考えるのはやめよう…。
あたしはがむしゃらに数学ね問題を解きまくった。
「希咲どうしちゃったの?」
「…さ…さぁ…………」
郁那と南の声は、あたしには届いていなかった。