君色-それぞれの翼-
クラスが違う上、男子の集団の中にいる戸谷君には、まず話しかける機会が無い。
当然あの戸谷君が女子のあたしに話しかける筈も無く、あたし達が学校で話す事はまず無かった。

そういう時期なのかなぁ…


それでもただ見ているだけの状況と…塾でしか声が聞けない事が辛い。
仕方ない事なのかもしれないけど、辛い。

毎日そんな気持ちだった。

そして、桜の花びらが散り始める現在。

4月は終わろうとしていた。
そんな時だった。
この事を思い出したのは。
「…球技大会?」
「忘れてたの?!手紙に書いてあったじゃん!!」
郁那が耳元で怒鳴る。耳が痛い。
そういやそんなことが書いてあったような…。
すっかり忘れていた。
「あ…あは。」
あたしは笑って誤魔化した。
郁那は溜め息を吐く。
「で、体育委員がグループ表作製担当だったんだけど、委員会があるから文化委員に回ってきたの。」
相槌を打ちながら、もしや、と思う。
「放課後手伝って!!」
予想的中。いつも毒舌の郁那が語尾にハートマークが付く様な口調になると、少し怖い。
「はいはい。」
あたしが頷くと、郁那はまたいつもと違う口調で「ありがとう」と言った。
*********

放課後、教室に模造紙を広げ、作業を始めた。
「マーカー臭い…」
手伝いに来てくれた南がペンの臭いを嗅ぎながら呟く。
「南はなぞり担当ね。で、希咲は下書き。」
郁那はそう言ってあたしにシャーペンを渡した。
でも、模造紙に芯を当てたところである事に気付く。
「ちょっと待った。」
「ん?」
郁那は脚を組んで椅子に座っている。
「郁那は何すんの。」
「……」
「何で呑気に座ってんの。」
「…あは。バレた?」

そして今になって郁那がサボろうとしていた事に気付いた南も、一緒になって怒る。
「あんたの仕事でしょ!!」
郁那は渋々椅子をしまい、マジックを一本とった。

やっと普通にに出来る。あたしは1年生全員の名前とグループが書いてある紙を見た。その時だった。
「こんちわー!!」
急にドアが開いた。
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