君色-それぞれの翼-
Ⅳ ホントのキモチ

マフラー




「一橋?」


…戸谷君?


「――――っ!!」

あたしは痛みを堪えながら顔を上げた。

目の前に…戸谷君がいる…。


「ちょっと…お前顔赤いし…」

そう言った戸谷君の手が



あたしの額に触れた。



「あつっ!!」

「………大丈夫」

自分が意味分かんない。

目を開ける事すら困難なのに、大丈夫なわけないし。

でも…戸谷君の前では弱音は吐きたくない…。

「全然大丈夫じゃないだろ…」

戸谷君は身に着けていたマフラーを外すと、あたしに巻き付け、広げていたプリントを鞄に押し込んだ。

その行動が早すぎて、あたしは理解するのに時間を要した。

そして戸谷君はあたしの身体を支えながら、立たせた。


「帰れ。」

「……でも…………」

「帰れ。寝ろ。先生には言っとく。」

「…だいじょ……」

「帰れ。」

強い目付きに低い声…


なのにどこか優しくて。




あたしは声が出なくなって、小さく頷いた。

「ん。じゃぁな。」

戸谷君はマフラーをきつく締め、あたしを教室から出した。






熱があるせいで外が余計に寒く感じる。

あたしは急いでバスに乗り込んだ。

「さむ……」


スポーツブランドのロゴが入ったマフラーを握り締める。


戸谷君の目付き…


声と口調…



決して良い雰囲気や言葉遣いでは無かったのに




こんなにも優しく感じるのは何で……?



顔が熱いのは





きっと熱のせいだけじゃない…。

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