予想外の恋愛


あろうことか朝田さんが伸ばしていた腕を折り曲げて、肘を床に付けた。

さっきより急激に近くなったお互いの顔に、息も出来ない程心臓がばくばく鳴り響く。


「嘘つくな、ナギサ」


もう少しでキスしてしまいそうな距離で、朝田さんがかすれた声でそう言った。

その口から自分の名前を呼ばれるだけで、どうして私はこんなにもドキドキしてしまうのだろう。


「お前…何してんだよ、いつもより気合い入れた格好しやがって」


ゆっくりと、だけど少し強引に、私の唇に付いているグロスを親指で拭う朝田さん。

その仕草に動揺しながら、私を見つめる朝田さんから目を離せない。
金縛りにあったように体が固まって思うように動かない。


どうして彼がそんなことをするのか、それを考える余裕なんて全くなくて、ただ吸い込まれるようにその目に釘付けになる…。



「っ…!」


急に、朝田さんが体を離して起き上がった。


「お前…なんて顔しやがる」


さっきの俺様な態度はどこへやら、焦ったような様子に私のほうが混乱する。


「へ?」

「無意識かよ…ったく」


ほら、と手を差し出され、恐る恐るその手を握るとぐいっと起き上がらせてくれた。


…あの行動は一体何だったのだろう。

朝田さんの妙な行動のおかげで、まだドキドキしている。
しかもしばらく収まりそうにもなくて参る。



< 71 / 218 >

この作品をシェア

pagetop