あの続きは給湯室にて
「……泣くなよ。」
「だって、」
本当に怖かったのだ。都心部にいくつも建っているビルに比べたらここは小さな建物だが、それでも地上十階に位置しているここは地上よりも確かに揺れが大きかったはずだ。
……あぁ、ビルが壊れなくてよかった。
「壊れないだろ、そう簡単には。」
「そう、だけど。」
「……泣くなよ。」
泣いてない、とは反論出来なかった。本当に涙が一粒瞳から溢れてしまったからだ。
彼は息を漏らすようにフッと笑うと、親指で私の頬を撫でるように涙を拭った。
子供をあやすようなその仕草に途端に恥ずかしくなる。
少しだけ俯かせていた顔を上げると、想像以上に彼の顔が近くにある。
この仕事に就いて数年、彼と過ごした時間ももう短くはないのだが、こんなに至近距離で彼を見たのは、初めてだった。
初めてなはずだが、なぜかこんな場面は初めてではない気がする。
何故だろう、そんなはずはないのだけど。
「……あっ、」
そこまで考えて、気がついた。