少女Fの思惑

にじゅうご

「届けてくれてありがとう」
「いや、部活中にごめん」
一ノ瀬は困ったように笑った。きっと毎日のように呼び出しがあってまともに練習もさせてもらえなかったのだろう。
「じゃあこれ、」
「賞状と図書カード…岩泉さんももらった?」
「賞状はね。図書カードは1位だけだって」
「そっか。じゃああげるよ、これ」
「へっ?」
はい、と図書カードを手にのせられてぽかんとしてしまった。
「い、いやいやいや!いいよ、別に!」
「届けてくれたし、それに岩泉さんって本好きだよね?」
にっこり笑う一ノ瀬に背筋がぞくりとした。
なんでそんなこと知ってるんだ。私はみんなの前でそんなこと言った覚えはないし、教室では本を読まないのに。
「よく図書館にむかってるの見るから。ほら、そこの廊下通るよね?ここから見えるんだよ」
指差す方向を見ればたしかに私がいつも通る廊下が見えた。口元がひきつるのを感じて一ノ瀬から離れた。
もう帰ろう、一緒にいるのはなんかこわい。
「えっと、じゃあありがたく頂きます。それじゃ、」
「あ、もう暗いし送ってくよ。ちょうど部活も終わるし…ちょっと待ってて」
「え、あっ……」
断る前に向こうへ行ってしまった一ノ瀬に伸ばしかけていた手をおろした。
夕と帰るって言えば、いいよね…はぁ。



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