少女Fの思惑

にじゅうはち



あれから結局家の近くまで送ってもらった。
やっぱかっこいい。イケメンで優しいとかそりゃモテるわ。

ぼすんと真っ黒なソファーに身体を沈めて力を抜いた。
ふかふかのそれはこの家に初めからおいてあったものだ。

この世界に来てしまった日、すぐにメールが届いて地図と住所が送られてきた。
それがここで、中に入ると結構広くていいところだった。

おっきいベッドにソファーにテレビ。
シンプルだけどオシャレな感じの部屋で不満は特になかった。
むしろ前の世界でしていた一人暮らしより断然いい環境だ。


「…一ノ瀬臣、ね」

…ってなんだ、今のつぶやきは。
まるで恋する乙女のようではないか。はっきり言っておく、断じて違う。
ただ今日の話をきいてどこか印象が変わったのも事実である。

「できるだけかかわりたくないってのに…はぁ」

こないだの宮森も今日の一ノ瀬もどうしてこう関わってしまうのだろうか。
ていうかどうして私なんかがここにきてしまったのか。
やっぱり考えずにはいられないのだ。
そしていつも答えにはたどり着けなくて唇をかむ。
元の世界に戻りたいなんて、いつかは考えなくなるのだろうか。



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