続*時を止めるキスを —Love is...—


そう、今夜はお詫び“第一弾“と称して龍が代金を持つことになっている。

あんなに迷惑かけたのは私だから、今夜は私が払うって言ったのに。彼は頑として譲らず、無言でお金を握らせてくる。

朝の資料室でそんな無駄な攻防をしていると、足取りも軽やかに現れたのがこちらの酔っ払い女王だ。

「受け取れるもんは素直に受け取んなきゃダメよ!」

そして、不満顔の私から毒気を抜くほどの満面の笑みで諭してきた。——損するわよ、と論点までズレてましたが。

自由人な彼女に対し、遠慮なく舌打ちした龍はとんでもない。こうなると私はひとり置いてけぼりだ。


しかし、柚さんは一切怯むことなく、面倒くさそうな顔をしながら彼の足の甲を高いヒールで踏みつけた。

いくらビジネスシューズ越しとはいえ、あの表情に乏しい彼氏さんがにわかに苦悶の表情を見せていた。

目撃者の私でもあれは痛そうだと思ったもん。革靴にヒールの跡が残ってた時点で相当な圧を感じたはず。

あいにくタカシへの計画は頓挫したが、蹴り飛ばす発言はあながち冗談じゃない。彼女なら難なくやり遂げるだろう。


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