少しずつ、見えるミライ
こうしてる分には、リリアさんは普通のお姉さんだ。

ステージに立っている時の神々しいまでのオーラを、どこに隠してるんだと思うくらい。



「はい、じゃ、乾杯。」

「お疲れっす。」

「朝陽が捕まって良かった。明日もライブあるのに、あんまり飲みすぎる訳、いかないから。」

「誰かの部屋に入っちゃうと、深酒しちゃうからですか?」

「うん。朝陽は勧められば飲むけど、自分からはそんなに飲まないでしょ。」

「ただ単に弱いだけですよ。」

「でも、みんなが酔っぱらって訳わかんなくちゃった後、話し相手になってくれるから助かる。」

「そうですか?」

「優しいから、何でも話せるし、つい話しちゃうし。」

「俺も話しちゃうし?」

「そう、そう。」



リリアさんには、好きな人がいる。

その人に最初に告白したのは、レコード会社の養成所に通っていた高校生の頃。

相手は一回りも年上だったから、まったく相手にされなかったけど、その後も諦めきれずに、10年もの間、好きっていう意思表示をし続けて来たらしい。



でも、いつもはぐらかされてばかり。

寂しさのあまり、無理をして、何度か他の男と付き合ったこともあったけど、結局、その人と比べてしまうから、長続きしたことはないそうだ。



だけど、だから、私は恋の歌が歌えるんだって、リリアさんは冗談ぽく笑う。

恋の苦しさを人一倍感じて生きて来たから、私なんかの声でも、みんなの心に届くんじゃないかなって。
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