少しずつ、見えるミライ
「お父さんはね、社長になりたかったの。」

「はぁ?」

「小さな会社でもいいから、社長になって、少しずつ自分で会社を大きくして行くっていう夢があったの。だから、いろんな職種やってたでしょ? まぁ、結局、全部、長続きしなかったけど。」

「うん。」

「だから、今、お父さん、楽しそうでしょ? うんと小さい会社だけど、社長だもん。今まで苦労したけど、お母さんも叶えてあげられたから幸せよ。」

「そうなんだ.....。」



父は今、小さなトラックが一台しかない、運送会社を経営している。

って言っても、業務内容はほとんど大手の下請けだし、従業員は父の他に一人だけ。

そこに会計兼副社長の母を入れた三人でやってる、おままごとみたいな会社だ。

それでも暮らしていける程度のお金は稼げてるし、確かに今までで一番長続きしている。

仕事自体が運動になっているから健康だし、生き生きしていて、いつも楽しそうだ。



「でも、なんで、突然、そんなこと聞くの? もしかして、好きな人ができた?」

「へ? あ、うん。実はそうなんだけど.....。」

「もしかして未帆の好きな堅実なサラリーマンじゃないから、迷ってるとか?」

「まぁ、そんな感じ。」

「じゃあ、例えば、うんと年下とか、フリーターとか、今までまったく自分の範疇じゃなかった人が気になって悩んでる?」

「.......。」

「当ったり~!!」

「なんで、わかるの?」

「だって、自分の娘だもん。あ、ねぇ、どんな人? もう付き合ってるの?」

「実は、同棲してる。」

「あら、そうなの?」
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