少しずつ、見えるミライ
ダン、ダン、ダンと、焦った様子で階段を駆け上がる音がして、いきなりバンッ!!と玄関の扉が開いた。

えっ? うち?

..........誰?

見構えて、恐る恐る振り返ると同時に、パーカーと同じ匂いが、突然、私を包み込んだ。



その匂いの主は、逞しい腕でしっかり私を抱きしめ、黙ったまま、しばらく離してくれなかった。

痛いほどきつく抱きしめられているのに、とても心地良い。

溢れる涙で顔は良く見えないけど、身体中にジワジワと、彼からしか受け取れない安堵感が広がって行く。



「ごめん。心配させて。」

「ううん。」

「あの日、一緒にいたのは真実だけど、俺はリリアさんに未帆のこと、話してただけなんだ。本当にそれだけだから。記事に書いてあるようなことは、絶対ないから。」

「そう.....。」

「信じてくれるよね?」

「もちろん。」

「ありがとう、未帆。」

「うん.......。」



聞けば、あの記事を見て、居ても立ってもいられなくなった朝陽は、スタッフが止めるのも聞かず、今日の最終便で一足先に帰って来てしまったらしい。

どこで芸能記者が待ち構えているかわからないのに、考えたら、すごい勇気だ。



だけど、そんな無茶も、私を思ってくれてのこと。

朝陽は心から本当に心配してくれたんだと思う。

彼の熱い思いが伝わって嬉しい。

愛されてるって、安心する。



だから、私は彼を信じて付いて行く。

それ以外の選択肢はない。

でも、朝陽の彼女でいるためには、もっと強くならなくちゃ。

愛してるって、きっとそういうことなんだよね.......
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