タマシイノカケラ
子供ながらでも、血の気が引くと言うのが分かった。

言い様のない重責と、後悔の念と、極度の吐き気。

後ずさりするけど、ここは自分の家。

いずれは見つかるし、怒られる。

逃げ出したくても、逃げ場なんてなかった。



あの時と、同じ心境。



「ねぇ」

もう一度、さっきよりも重い声でカオリが呼び掛ける。

顔を上げろと言わんばかりに、強い口調。

緑色の爪に、ぐっと力が入るのが見える。

カオリの促しに応える様に、ゆっくりと顔を上げた。







予想外のカオリの表情。

さっきの声色とは真逆の、いつもの、優しい、カオリの微笑み。

「なんて顔してんのよ」



──同じだった。

壊した人形を見つめながら後ずさりした私の背中に、母親の感触があった。

怒られると思い、振り返る事もできず、母親の体と私の背中はピッタリと合わさっていた。

母親が、私を振り返させる。

そこには鬼の表情は無かった。


今のカオリと同じ、柔らかい笑顔の母親が居た。

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