むとうさん

あの、いつも武藤さんと飲んだ後送ってくれていた運転手の坊主の弟分だった。

「あの、こんにちは。」

思い切って声をかける。坊主はしかめっ面のような表情をしかけると、ぱっと顔を明るくした。

「これは、どうもどうも！鈴木さん！兄貴ですか？居ますよ、今呼んでみましょうか？」
非常に感じ良く、丁寧に対応する。

「あ、お願いします…」

坊主は降りた階段をバタバタと戻っていった。

あぁ武藤さんに会えるのか。…いや、でも柏木さんに連絡したのに私にしなかったのは、当然何か意図があってのことだ。私は武藤さんに向ける笑顔の準備よりも、あの坊主を介して食い下がる勇気を用意しておかなければいけないのかもしれない。

くっとハンドバックの持ち手を握りしめる。

坊主の反応を見ると、武藤さんは坊主に私に行き先を連絡しなかったことを話さなかったのかもしれない。