むとうさん
ああ。こんなにほっとする時間は久しぶり。社会人になってからの年末年始は、1年目は仕事疲れで実家でぐったりして。それ以降は1人になるのが怖くて奈津美とクラブで過ごしたりした。

私はいい友人や、仕事仲間、そして見守ってくれる大切な家族もいる。

贅沢なのかもしれないけど、そんな大切な存在があっても、社会生活を送る中いつも1人でいるような気持ちだった。

ここにはいつまでいてもいい。そして今は武藤さんがいつもいる。

武藤さんも、同じように思ってくれているのだろうか。

「はい、サイドカーです。」

オレンジ色が三角形のふちまで満たされている。マティーニなんかもそうだけど、こういうショートカクテルをこぼさずスマートに飲めない。

「いただきます。」

どこから飲もうか、思案している横で武藤さんはすっと飲み干した。

「どうしてそんなきれいにショートカクテル飲めるんですか。」

「あ?普通に飲みゃいいんだろ。」

「だって…」

「お前さ、俺がウィスキーしか飲んだことないとでも思ってるだろ。」

三白眼はやはり怖いんだけど。こんな馴れ合いができるようになっただけで進歩進歩。
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