むとうさん
「あんたと一緒に飲んだり、食事したりするの、すごく新鮮で大切なんだぜ?」

なんでそんなこと言うのよ。きっと、しがらみから離れられないんだろう。でも、一緒にお酒飲んだり食事したりするくらい、いつだってどこだって付き合うわよ。

あのバーに行かなかったら、行ってもむとうさんっていう、無感情に見えるんだけど、少し変わってて、私が知ってる誰よりも物事に真剣なあなたに出会わなかったら…

達也のことだって今よりずっと恨んで毎日過ごしてた。

「そんなこと、言わないでください。寂しいですから…」

私はきづいたらむとうさんを後ろから抱きしめていた。

むとうさんは温かかった。達也よりずっと、触れたら温かかった。

後ろからはむとうさんの表情は分からなかった。ただ、身体を絡ませるわけでもなく、むとうさんはそのまま目の前の深い海を眺めている。
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