むとうさん
水筒に入れた紅茶をコップに注いでむとうさんに渡す。湯気がほわほわと立っている。

膝に置いて、2人でプラスチックのフォークでお下品につつく。

あれ、おいしい。実はこのケーキ、一度カットケーキで差し入れでもらったことがあるんだけど。1日たったからかしっとりして作り立てより美味しい気がする。

それに、昨日切り分けて達也に渡したらどんな顔をすればいいかわからなかった。むとうさんとこうしてつついて食べたほうが楽しい。

「むとうさん、甘いもの食べられるんですね。」
「俺好き嫌いねぇよ。」
「ていうか1日たつと美味しい。今日食べられてよかった。」

なんか昨日のことが嘘みたいにどうでもいい。秋晴れの空が気持ちいい。

それよりも、今、むとうさんは美味しいって思ってくれてるのかな?とか、もくもくと食べてるけど何考えてるのかな?とかそんなことを考えていた。

どうしてむとうさんはこんなことに付き合ってくれるのだろうか?

普通だったら、この男私に少しは気があるのね、はいはい付き合うかなーとか考えるんだけど。

むとうさんは皆に同じように接する気がして。あるいは気まぐれな気がして。

個人的に私に気持ちがあっても、それは手に入れたいという男女の計算じゃなくて、お互いを支え合う何か別の精神的な繋がりを感じる。

そこには見返りを求めない気持ちがあって、それに安心できる私がいる。

昨日の悲しい出来事が嘘のように日曜の午後は穏やかに過ぎていった。

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