むとうさん
「うちの人と伊織くんが繋がったのはそこからね。伊織くんとうちの若い子が揉めて結構大事になってしまって。うちの人が気になって見たら貸し付けていた武藤夫婦の息子だったってわかったの。
うちの人、伊織くんのこと個人的に気に入ったみたいで。それに、貸し付けた家の息子だから何かあった時に手なづけてけば、と考えたみたいね。」

やはり叔父さんは…普通の感覚でみれば、情がなくて酷い人なのかもしれない。
でも、私たちの世界からみた話だ。

「結果的には、1人になった伊織くんは生活のために色々やっているうちにそうなったのね。それを紹介していったのがうちの人。うちの人が伊織くんをこの世界に引きずり込んだということ。」

私が神妙な顔つきだったのか、おばさんは少し言葉を選んで続けた。

「でもね、伊織くんはなんというか…素質があったの。伊織くんて、強いのよ…頭がよくて冷静沈着なんだけど、普通の人が持っている、身を守るための恐怖心というものがないのよ。リミッターがないから…そういう人はこの世界でとても強いの。」

こういうとうちの人を庇っているようだけど、とおばさんはつぶやいた。

繋がって、むとうさんの輪郭が見えてきた絵は、私にあと少しだ、と囁いた。
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