even if
朝はいつも、7時30分過ぎには保健室の鍵を開けることにしている。

朝、教室に入りたくない、と来る生徒や、自転車通学で転んで怪我をした生徒のためだ。

保健室に入り、窓を開けて換気すると、初夏の気持ちいい風が入ってきた。

成翔学院は全国でも有名な進学校のひとつ。

だからなのか、志が高い生徒が多いと感じる。
将来、就きたい職業が決まっている生徒も多い。

前の女子高にはいたけど、ここには今のところ、保健室登校の生徒も登校拒否の生徒もいない。
授業をサボって保健室に来る生徒は…まぁ一人いるけれど。

今日は朝からのお客さんもなく、私はひとまずホッとして、山積みの書類を片っ端から片付けていた。

2時間目の授業が始まって少し過ぎた頃、ノックもなく扉が開いた。

反射的に、書類を引き出しに突っ込みながら、扉を開けた張本人を軽く睨む。

『渋谷くん。ノックしてっていつも言ってるでしょ?』

私はいつも本気で怒らない。
勝手に部屋に入って書類を見てたとか、器具に触ってたとかなら本気で怒るけど、そんなことをする生徒は今のところいない。

それを知ってか知らずか、渋谷くんは扉にもたれて悪びれもせずに『あー、ごめん』とだけ言う。

なんて心のこもらない謝罪なんだ。

渋谷くんは、眠たそうに目をこすると、
『ななちゃん、寝てもいい?』

ふわ、といい香りをさせながら、近づいてくる。

『眠いの?』

『うん。だるいし眠い。あと、頭痛いし、腹も痛い』

絶対、ただの寝不足だろ。

『お熱は?』

念のため、というか、何もしないのもしゃくで、消毒をした体温計を手渡す。

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