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四人が出ていくと、急に静かになった保健室で物品の在庫を調べることにした。

ガーゼや湿布を数えながら、さっきの生徒たちの会話を思い出す。

女子高だから知らなかったけど、男の子っていつもあんな会話ばっかりしてるのだろうか。

女子高で、女の子たちが結構きわどい会話を繰り広げるのと同じなのかな。

女の子たちは、男の子たちがいつもあんな会話ばかりしてるのを、どう思ってるのかしら。

今度、誰かに聞いてみよう。




物品を全て数え終えると、腰に手をあてて『よし』と一人呟いた。

時計を見ると、7時。
今日もこんな時間。
帰り支度をしていると、ドアをノックする音がした。

『はい、どうぞ』

この時間、生徒はもう全員帰っているから、来るのは当然、同僚である教諭だ。

『平井先生、少しお時間いいですか?』

そう言いながら、入ってきたのは、数学教師で渋谷くんの担任でもある桜井先生だった。

『こんな時間までお仕事されてるんですね』

桜井先生は珍しげに保健室を見回しながら言う。
サッカー部の顧問もしている桜井先生は私より四才年上の28歳で、大きな口をあけてよく笑う爽やかな先生。
生徒に人気があって、女の子たちの話にもよく出てくる。

『はい。私、要領が悪いもので…』

『いやいや、生徒たちがひっきりなしに来てますからね。仕方ないですよ』

はははと笑う桜井先生を見ながら、保健室の似合わない人だと思う。

『えと…私に何かご用でしたか?』

桜井先生は、
あぁそうなんです、と話し出そうとして、

『こんな時間なんで、飯でも食いながらどうですか?』

と聞いてきた。

どうせ、家に帰ってもなんにもない。
春にこっちに引っ越してきて土地勘のない私は、外食しようにも、このへんのお店をよく知らないし、ちょうどいいか。
お腹も空いたしね。

『いいですね』

職員室に荷物取りに行ってきます!という桜井先生を見送って保健室の鍵をしめた。

こっちに引っ越してきて、誰かと晩ごはんを食べに行くのは、初めてだなぁ、と思った。

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