歩道橋で会おうね。
廊下の片隅で、母さんたちはいた。
僕は音も立てずに近寄った。
「ごめんなさい幸雄さん。
まさかハルキが断るとは思わなくて」
母さんが頭を下げていた。
幸雄さん?は腕組をしながら溜息を吐いた。
「だから男は嫌いなんだ。
ハルキって名前も、普通は女だろう。
漢字も遥かな希望で、女の子らしい名前だし。
それなのに男が来た。
驚いたよさっきはね…」
「確かに正式にハルキを男だと言わなかったワタシが悪いんです。
ごめんなさい」
「まぁ別に良いさ。
さすがに性別を変えろとは俺も言わないしな。
…でもさっきの対応はどうかと思う。
友達と別れたくないって…信じられねぇな。
どーせ別れるくせによ」
「ハルキに仲の良い友達がいることは知っていました。
でもそんなのウワベだけの関係だとばかり…」
「文菜さん、君の注意力不足だね。
まぁ君との結婚は決まったものだし、水川財閥の名もあるから、ハルキくんを施設へいれることは駄目だし…。
親の言うことは絶対だということを、教えてやるべきだな」
「ええ…」
「ところで聞きたいんだが、ハルキくんの実の父親はどうした?
死別と聞いているが、俺らは結婚するんだ。
本当のことを教えてもらえるか?」
「…ハルキの本当の父親は、名前をワタシは知りません」
「知らない?可笑しいだろ、どういうことだ」
「ワタシは学生時代、地元を牛耳っていた不良軍団の1人に捕まり、犯されて。
それで身ごもったのがハルキです」
「は…?マジかよ、信じられねぇ。
てか堕ろさなかったわけ?」
「ワタシの父親が許さなくて。
堕ろさなかったら殺すと脅されて…。
仕方なく生んだのですが、父親はハルキに変なことばかり教えて」
次々と出てくる、僕の秘密。
僕は2人から見えない死角の柱の陰で、息をひそめていた。