鳥籠の底は朱い道
目覚めた朱
首から滝のように血を流し、倒れこむ朱道。
そこには朱道の死という終焉しか見いだせない。
椿は顔に朱道の血を浴び、頬を垂らす雫だけが赤を流している。
血の泉に沈む朱道の体。ぴくりとも動かないその反応は絶命したのだろう。
「――ごめんなさい朱道」
椿は涙を拭わない。
朱道を殺した事実を拭わずこの先ずっと背負っていくことを誓った。
この戦いで最初から後悔するのは椿であった。それは本人でも分かっていたことであり、そしてその現実を受け止めている。
恐らくこの涙はここにいる限り止まらない。だから椿はゆっくりと足を進めていく。

――だが、黒馬は扉を開くことはない。それはただ単に息子を殺された怒りではなく、背を向けた椿よりも先に気がついたから。
「――う、そ?」
ゆっくりと振り返った椿はその光景に自分の目を疑う。
そこにはもう全てを赤に染めた朱道が立ち上がっていた。
「……ま、だ……オレは、戦える」
「有り得ない……なんで? どうして起き上がるの」
椿は朱道が立ち上がたことよりも、また殺さないといけないということに恐怖した。
だが、それは間違い。朱道はまだ死んではいなかったのだから。
そして椿の問いを驚きながらも冷静に分析した黒馬が答える。
「これが、これが朱雀の力。死を拒む眠った朱雀の力なのだよ。恐ろしいまでの回復能力」
確かに黒馬の言っていることは間違ってはいない。何故なら朱道の腕と腹部、そして首の血は止まっていたのだから。
だが、それは完全に回復した訳ではなく、ただ単に血が止まっただけのこと。とても戦える状況ではない。
半端な攻撃では朱道を殺せない。だったら完全に死を植え付けるしか他にはない。だから椿は涙を拭い、神素を一気に開放する。
「まだだ、まだ早い。もう少しで朱道の神素は目覚める。それまで待て」
黒馬は椿が朱道を完全に殺そうとしていると察し止めに掛るが、それでも椿の意思は止まらない。
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