記憶と。
「じゃあさ、私に今好きな人がいるっていったらさ、どうする?」
「どうするって・・・。」
僕は少しずつ不安になっていった。
「やっぱ。嫌、かな。」
「嫌?」
綾子は真剣な顔で僕の顔を見つめた。
僕は恥ずかしくなって目線を下に向けた。
「それって、妬いてるの?」
「・・・。」
僕は素直に答えることができなかった。
心の中の、その不安な気持ちで、僕はその場から逃げたしたくなっていた。
そして僕が黙っていると、綾子はゆっくりと深呼吸みたいな事をしていた。
「ねえ、私はユキの事好きだよ。」
僕はその一言に意味が解らなかった。
もちろん複雑な意味なんて無かったんだとおもう。
でも僕は、それまでの極限に近い不安のせいで、それさえも別れに聞こえた。
「好きって・・・。じゃあなんで。」
じゃあなんで。僕は自分でも良くわからないことを言っていた。
綾子は少し怒ったような顔をしていた。
その理由を聞こうと思った瞬間。綾子の顔が急に近づいてきた。
「・・・。」
僕はこの訳の解らない状況で、生まれて初めてのキスをした。
それはこんな寒い空き地でも、人のあったかさを感じることが出来た。
「なんでわかんないかな。」
途切れそうな声で、綾子は言った。
僕が全てを理解したのは、その言葉を聴いてからだった。
「ユキってさ、すごく優しいんだけど、ちょっと臆病だよね。」
「臆病・・・。そうかな。」
「そうだよ。」
僕は、なんていったらよく解らなくて、ただ相槌をうっていた。
「寒くなってきたね。帰ろっか。」
「・・・。綾子。あのさ。」
「ん?」
「俺はさ、ずっと前から、好きだったよ。」
臆病な僕の、精一杯勇気だった。
それは、ずっとずっと言えなかった、大好きな人への素直な想いだった。
そして。僕の目の中には、僕の大好きな笑顔がそこにあった。
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