記憶と。
 そして、僕はその場所にたどり着いた。
そこには、お経の声と、真っ白な花輪が並んでいた。
そして・・・。入り口には大きな木の板のようなものに、こう書いてあった。
「高木・・・綾子・・・。享年・・・18歳・・・。」
頭がどうにかなりそうだった。
そこに、立っていることも出来なくなりそうだった。
もちろん、この時点で、それが本当に綾子の葬儀なのか。それは解らないはずだった。
でも、2日前、僕が感じた嫌な感じ。そして勝手に流れてきた涙。
この葬儀が、綾子以外のものであるとは、まったく思えなかった。
涙が出てきそうになっていた僕は、綾子の言葉を思い出していた。
「あそこは、私が泣くべき場所じゃなかった。」
その言葉が頭の中を駆け巡った。
そう、僕も、ここで泣いていい人間ではない気がした。
綾子に自分で別れを告げ、綾子を守ることをやめた自分が、ここで泣いていいとは思えなかった。
僕は、この葬儀が綾子のものかどうかも確認しないまま、バイクに乗り、綾子の家に向かった。

 綾子の家の周りでは、綾子のお父さんが亡くなった時と同じ空気があった。
そして、カーテンは全て閉められ、インターフォンを鳴らしても反応はなく、ドアには鍵がかかっていた。
それでも僕は、何度も、何度も鳴らし続けた。
もしかしたら、綾子は2階にいるんじゃないのか。
そんな気がしていた。
 僕は、たぶん30分以上も鳴らし続けていた。
それでも、だれも出てくる気配がなく、そこに座り込んだ。
「ヒロ!」
健二の声がした。
「こんなところにいたのか・・・。」
「健二・・・」
「会場でお前見かけたってやつがいて・・・。」
健二は俺を探し回っていてくれたようだった。
「・・・。健二・・・。なんで・・・綾子は・・・大丈夫だったんじゃないのか・・・。」
「・・・。」
「俺、皆に騙されてたのか。病院にいったとき、もう、綾子は・・・」
「・・・。」
健二は何も喋らなかった。
それは、俺が言っていることが全て真実であることを物語っていた。
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