記憶と。
「なんで・・・。教えてくれなかったんだ・・・!」
「言えると思うのか・・・」
僕は、健二に恨みと感謝、どちらもがごちゃごちゃになったような感情を抱いた。
でも、その健二の行動が、俺に対する善意だったことは解っていた。
それでも、このどうしようもない悔しみは、健二に向けるしかなかった。
「病院に行ったとき、みんなが泣いてた・・・。あの時少しおかしいとは思ってた。」
「・・・。内緒にしたのはな。高木のおばさんが決めたことだったんだ。」
「おばさんが?なんで・・・。」
そこで健二から全ての話を聞いた。
おばさんは僕と綾子が何故別れたのかも知っていた。
そして、綾子が僕の話も良くしていたらしい。
僕達が、どれくらいの関係だったのか。それも解ってくれていた。
それで、僕が3年ぶりに綾子に会うのに、もうこの世にいない姿では、僕が可哀想だと言ってくれたらしい。
僕は、その場で泣き崩れてしまった。
綾子の優しさは、おばさんの優しさを受け継いでいたんだと感じた。
そして健二も、俺の事を思って、おばさんの言うとおりにしてくれたんだということも。
おばさんの優しさ、健二の優しさ、そして綾子の事を考えると、僕はどうしようもなく、涙が溢れ出ていた。

 しばらくたって、僕と健二はその場を後にした。
健二は一緒に葬儀に出ることを薦めてくれたが、僕はとても行けそうになかった。
臆病で、勇気のない僕は、大好きな人の死を、受け入れることが出来なかった。
結局、綾子と喧嘩をしたまま、仲直りすることもできず、綾子との永遠の別れになった。
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